今回は、病院からご相談をいただいた80代男性の施設探しのお話です。
ご本人は認知症の症状が強く、意思疎通が難しい状態でした。ただ、身体機能は比較的保たれていて、自分で歩くことができ、食事もご自身で取れていました。
最初に病院から聞いていたのは、「認知症の症状が強い」「日中に歩き回ることがある」という情報です。それをもとに施設を探して、3施設の見学を予定しました。ところが、1件目の見学中に、ご家族から施設探しを大きく左右する話を初めて聞くことになります。
今回のケースで強く感じたのは、診断名だけではなく、実際にどんな行動が、どのくらいの頻度で起きているのかを正確に共有することの大切さです。情報を確認し直し、受け入れ先を探し直した経緯をお伝えします。
※個人が特定されないよう、年齢・地域・病院名・施設名などは一部ぼかしています。受け入れ条件や対応は、この事例当時のものです。
相談当初|歩行できる一方で、認知症の症状が強かった
ご相談は病院からいただきました。ご本人は80代の男性で、肺炎などの治療のために入院されていました。
身体的には比較的お元気で、自分で歩くことができ、食事も自分で取れるとのことでした。一方で認知症の症状は強く、意思疎通が難しい状態。日中に居室や病棟内を歩き回ることがある、という話も聞いていました。
そこで私は、「身体は動けるけれど、認知症への対応が必要な方」として受け入れてもらえる施設を探しました。
3施設を見学する予定が、当日の情報で大きく変わった
病院から聞いた情報をもとに、3施設を選んだ
病院から聞いていた情報をもとに各施設へ相談して、「その程度であれば、一度見学して詳しく確認しましょう」と言ってもらえた施設を選びました。そのうちの3施設を、ご家族と私で、同じ日に見学することになりました。
この時点では、私も施設側も、強い暴言や物を投げる行動があるとは聞いていませんでした。また、見学できることと、入居の受け入れが確定することは別です。
1件目の見学中、ご家族から初めて聞いた話
1件目の施設を見学しているとき、ご家族から、初めてこんな話が出ました。
- 認知症の症状が出てから、少し怒りっぽくなった
- 病院で看護師さんに強い口調で話してしまうことがある
- 物を投げてしまうことがあり、病院では身体拘束も行われている
この話が出たことで、施設側の受け止め方は大きく変わりました。
老人ホームは、みなさんで暮らす共同生活の場です。ご本人が安心して過ごせるか、他の入居者さんへの影響はどうか、職員が安全に支援できるかを確認しなければいけません。そのため、受け入れの判断には、診断名に加えて、具体的な行動や頻度と施設の対応体制を照らし合わせることが重要になります。
残り2施設も、病院の状況を確認してから判断することに
同じ日に予定していた残り2施設でも、ご家族から同じ内容をお伝えしました。すると、どの施設からも、「叩くなどの行動はあるのか」「物を投げる頻度はどのくらいか」「暴言はどの程度か」と、詳しく確認されました。
ただ、その時点で私が持っていたのは、ご家族から聞いた話だけです。病院からその行動について直接確認できていなかったので、私からも、「病院で実際にどの程度起きているのかを確認してから、もう一度判断してほしい」とお願いしました。
3施設とも、その場ですぐに断ることはせず、病院での状況を再確認したうえで、改めて考えてくれることになりました。
病院に再確認すると、想定より行動面の症状が強かった
見学のあと、病院にもう一度、詳しく状況を確認しました。すると、暴言はほぼ毎日あり、物を投げることもあるとのことでした。病院からは、安全確保のために身体拘束を行っているという説明も受けました。
ここでの身体拘束の記載は、病院から聞いた当時の状況です。認知症の症状や行動があることだけで身体拘束が必要になる、という意味ではありません。拘束の必要性や解除に向けた対応は、医療職に確認する必要があります。
私は、この内容をあいまいにせず、見学した3施設にそのままお伝えしました。その結果、3施設とも、「現在の状態では受け入れは難しい」という判断になりました。
ご本人に認知症があることだけを理由にした判断ではなく、確認された行動に対して、それぞれの施設の体制で対応することが難しいという判断でした。最初に予定していた施設探しは、ここで一度、振り出しに戻ることになりました。
施設探しを仕切り直し、対応経験がある施設へ相談
そこから、施設探しをやり直しました。今回は、最初から「毎日のように強い言動がある」「物を投げることがある」「病院では身体拘束が行われている」というところまでお伝えして、相談しています。
認知症の症状や行動面への対応経験が比較的豊富な施設・運営会社に相談したところ、2施設から前向きなお返事をもらえました。
1施設からは、「まずは受け入れて、様子を見る。必要に応じて、主治医と相談しながら薬の調整なども検討する。ただし、状態によっては継続して入居するのが難しくなる可能性もある」という説明がありました。もう1施設も、主治医と連携しながら対応方法を考えていくことを前提に、受け入れを検討してくれました。
薬の調整は施設が独自に判断して行うものではなく、医師の診察や判断に基づきます。認知症の行動面の症状への対応では、まず体調や環境、関わり方なども確認し、薬を使わない対応を検討することが基本とされています。薬の調整だけで対応できると決めつけず、医師や介護職と相談することが大切です。
どちらも、「必ず大丈夫」と言ってくれたわけではありません。今の状態をきちんと理解したうえで、入居後も様子を見ながら対応していく、という姿勢でした。
受け入れ条件や見学で確認したいことは、認知症の方の老人ホーム選び|受け入れ条件と見学で確認したいことでもまとめています。
ご家族との面会では、落ち着いていることが多かった
もうひとつ特徴的だったのが、ご家族に対しては、強い言動や物を投げる行動がほとんど出ていなかったことです。病院では看護師さんに強い言動が出る一方で、ご家族との面会のときは、わりと落ち着いていたそうです。
同じ方でも、相手や環境によって症状の出方が違うことがあります。「家族と話しているときは大丈夫だったから、施設でも大丈夫」とも、「病院で起きていたから、どこでも同じ」とも、決めつけることはできません。
ご家族が見ている場面と、病院の職員が見ている場面は違うことがあります。誰かを責めるためではなく、それぞれが把握している情報を持ち寄ることが大切です。
最終的には、ご家族にも見学のときにしっかり状況を説明していただいて、施設側と認識をそろえながら話を進めました。
最終的に介護付き有料老人ホームへ入居
改めて見つけた2施設をご家族と見学して、そのうちの介護付き有料老人ホームに入居することになりました。
ご本人は身体的にはお元気だったので、施設の中も自分で歩けます。入居後も、日中になると自分の部屋から出て、廊下を歩くことがあったそうです。そんなときは、無理に居室へ戻すのではなく、状況に応じて食堂など人の目が届く場所へ案内して、スタッフが見守る形で対応してくれました。
そうしているうちに、少しずつ施設での生活にも落ち着きが見られるようになったと聞いています。この対応や経過は、この方の事例であり、同じ方法がすべての方に合うとは限りません。
施設が知りたいのは、診断名に加えた具体的な状況
今回いちばん感じたのは、「認知症があります」という情報だけでは、施設は受け入れられるかどうかを判断できない、ということです。
施設が知りたいのは、たとえば次のような具体的なことです。
- 歩き回ることがあるか、どのような場面で起きるか
- 強い口調や暴言があるか
- 物を投げる、叩くなどの行動があるか
- どのくらいの頻度で起きるか
- 誰に対して起こりやすいか
- 今、病院や自宅ではどのように対応しているか
こうした情報があると、施設側も「うちの体制で支援できるか」を具体的に考えられます。逆に、情報が足りないまま探し始めると、今回のように、見学のあとで候補を探し直すことにもなります。
ご家族だけでは分からないことは、無理に答えず「病院に確認します」と伝えてかまいません。病院の相談員や看護師、紹介会社の担当者と、必要な情報を整理していくと進めやすくなります。
正確に伝えることは、その方に合う施設を探すため
ご家族の中には、「気になる行動を伝えたら、施設に断られてしまうのでは」と不安になる方もいると思います。
でも、施設が実際の状態を十分に把握しないまま入居すると、想定していなかった対応が必要になり、ご本人にとっても施設にとっても負担が大きくなってしまうことがあります。
今回も、行動面を詳しく伝えたことで、最初の3施設は難しくなりました。ただ、その情報を共有して相談したからこそ、「その状態でも、一度受け入れてみましょう」と言ってくれる施設を見つけられたのも事実です。
正確にお伝えするのは、断られるためではなく、その方に合う施設を探すため。そう思っています。
相談や見学同行など、私が行っている支援は、老人ホーム紹介会社はどこまでしてくれる?私が実際に行っている支援内容でご紹介しています。
まとめ|認知症の症状が強いときほど、行動を具体的に伝える
今回は、「認知症の症状が強く、日中に歩き回ることがある」という情報から施設探しを始めました。ところが見学の当日に、ご家族から、強い言動や物を投げる行動、病院で身体拘束が行われていることを初めて聞きます。
病院に改めて確認すると、暴言はほぼ毎日あり、物を投げることもあるとのことでした。最初に見学した3施設は、現在の状態では受け入れが難しいという判断になりました。
そこから施設探しを仕切り直して、認知症の症状や行動面への対応経験がある施設に、正確な情報を伝えて相談した結果、最終的に介護付き有料老人ホームへの入居につながりました。
認知症のある方の施設探しでは、診断名だけでなく、実際の行動、頻度、起こりやすい場面、今の対応方法まで、具体的に共有しておくことが大切です。受け入れの条件や対応の仕方は施設によって違うため、一つの施設で難しいと言われても、別の体制の施設で検討できる場合があります。
まずは、病院やご家族が把握している状況を整理し、受け入れ条件と入居後の支援方法を確認しながら、相談員と一緒に候補を探してみてください。


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