今回は、以前ご紹介した「要介護3でもほぼ自立していた男性」の、その後のお話です。
最初に入居したのは、費用を抑えつつ、単独外出や自室での飲食にも柔軟に対応してくれた住宅型有料老人ホームでした。ところが、入居から4か月ほどたった頃、ご本人から「住み替えたい」と連絡が入ります。
いちばんの理由は食事。それに加えて、周りの入居者さんとの生活感の違いも気になっていたようです。
この住み替えを通して、ご本人の考えがはっきりしてきました。「できるだけ安く暮らす」より、「元気に動けるうちは、多少お金がかかっても自分らしく暮らしたい」という方向です。今回は、食事と自由な暮らしを大切にして施設を選び直した経緯をお伝えします。
最初の施設探しについては、【相談員体験談④】要介護3でもほぼ自立|自由な外出を続けられる老人ホーム探しでご紹介しています。
※個人が特定されないよう、年齢・地域・施設情報などは一部ぼかしています。料金、食事の提供方法、介護サービスの体制は、この事例当時の条件です。
入居4か月後、「住み替えたい」と連絡があった
最初の施設に入居してから、4か月ほどたった頃でした。ご本人から直接連絡があり、「別の施設を探したい」と相談を受けました。
最初の施設は低価格で、ご本人の希望だった単独外出や自室での飲食にも、条件付きで対応してもらえるところでした。入居してしばらくは、外出もしながら、わりと自由に過ごされていたと思います。
ただ、実際に暮らしてみると、見学のときには分からなかった不満が少しずつ出てきたそうです。
住み替えの理由は、食事と周囲との生活感の違い
一番大きかったのは「食事が合わない」という不満
住み替えたい理由の中で、いちばん大きかったのが食事です。
最初の施設は、ご飯は施設内で炊いていたものの、おかずは湯煎して出すタイプが中心でした。食費を含めた利用料は、かなり安く抑えられていました。
ただ、ご本人はお元気で食欲もあります。だんだん「おいしくない」「量も足りない」と感じるようになり、外に出てカップ麺や食べ物を買い足す日が増えていきました。
施設の食費が安くても、毎日のように自分で買い足していれば、その分の出費はかさみます。ご本人からは、「それなら、多少高くてもいいから、ちゃんと施設で食事を作ってくれるところに移りたい」というお話がありました。
低価格の理由を知り、自分に合うかを確かめる
今回、あらためて思ったのは、料金表を見ているだけでは分からないことがある、ということです。
最初の施設では、食事の提供方法の工夫も、費用を抑えることにつながっていました。これは決して悪いことではありません。食事の味や量にそこまでこだわりがなく、費用を優先したい方には、大きなメリットになります。
湯煎のおかずだから必ず味が劣る、施設内で調理していれば必ず満足できる、というわけではありません。この事例では、ご本人の好みや食事量に合わなかったということです。
安いか高いかで良し悪しを決めるより、なぜその料金なのかを知ったうえで、自分の暮らしに合うかどうかを見るほうが、あとで困りにくいと思います。
周囲の入居者と生活感が合わなかった
食事のほかにも、気になることがありました。
最初の施設には、車いすを使っている方や認知症のある方など、日常的に介助が必要な入居者さんが多く暮らしていました。ご本人は要介護3とはいえ、実際にはかなり自立していて、ひとりで自由に出かけられます。そのため、「周りの人と話が合いにくい」「自分とは生活の感じが違う」と感じるようになっていました。
これは、他の入居者さんや施設の良し悪しではなく、ご本人が望む過ごし方との相性の話です。老人ホームでは、建物や料金に加えて、入居者さん同士の交流や日常の雰囲気も、暮らしやすさに関わってきます。
ただ、入居者さんの状態は変わっていくものなので、見学で見た雰囲気がこの先もずっと続くとは限りません。
住み替えでは、食事と自由な暮らしを優先した
最優先条件は「施設内で食事を作っていること」
住み替えでは、最初の施設探しのときと優先順位が変わりました。
いちばんの条件は、施設内で食事を調理していること。前回は総額15万円程度に抑えたいと強く希望されていましたが、今回は「今より高くなっても仕方ない」と考えが変わっていました。住んでみて初めて、自分にとって食事がどれだけ大事かが分かったのだと思います。
そこで、施設内調理の食事を出していて、なおかつご本人の自由度をあまり損なわない住宅型有料老人ホームを探しました。
買い物や散歩に出かけやすい住み替え先
最終的に選ばれたのは、デイサービスを併設していない住宅型有料老人ホームです。
駅からは歩いて15分ほどかかるので、電車で頻繁に出かけるには少し遠めです。その代わり、施設のすぐ隣にスーパーがあり、歩いて2〜3分のところにコンビニもあります。近くには公園もあって、買い物や散歩に気軽に出かけられる環境でした。
ご本人はまだかなりお元気だったので、電車の便がいいことより、毎日歩いて買い物や散歩に行けることのほうが、暮らしには合っていました。
今の自由と、将来の介護を分けて考える
住み替え先には訪問介護事業所があり、当時は定期巡回・随時対応型訪問介護看護も使える体制でした。今はほとんど介護が必要なくても、この先少しずつ手伝いが必要になったら、訪問介護を使いながら暮らしていくことを考えました。
定期巡回・随時対応型訪問介護看護は、定期的な訪問や、必要時の連絡に応じた対応を組み合わせる介護保険サービスです。さらに介護の量が増えたときは、施設の対応状況やご本人の状態、利用条件を確認し、ケアマネジャーと相談して考えていく形です。必要な支援が増えれば自動的に切り替えられる、というものではありません。
ご本人は「動けるうちは、自分のお金を使ってでも自由に暮らしたい」とはっきり話されていました。将来さらに介護が必要になったら、要件を満たせば特別養護老人ホームへの申込みも考える、というイメージも持っています。ただし、申込みをすればすぐに入居できるとは限りません。
元気な今と、介護が必要になるかもしれない将来を分けて考えて、まずは元気な時期をどう過ごしたいかを優先した施設選びでした。
費用は、総額15万円程度の希望から基本料金約20万円へ
前の施設探しでは、毎月の総額を15万円程度に抑えることを目標にしていました。それに対して、今回選んだ施設は、家賃・管理費・食費などの施設利用料だけで約20万円。決して小さな差ではありません。
約20万円は毎月の支払い総額ではなく、介護保険の自己負担、医療費、日用品などは別途かかります。また、15万円は前回の希望額なので、実際の支払額同士を同じ条件で比較した数字ではありません。
それでもご本人は、「元気に動けるうちは、貯金も使いながら、自分が納得できる暮らしをしたい」と決めました。
施設の費用は、安ければいいというものでもありません。その金額で、毎日どんな生活ができるのかまで見ておく必要があります。今回のように、住んでみて初めて、自分が何にお金を使いたいのかがはっきりすることもあるようです。
昼食付き見学で、実際に食べてから決めてもらった
今回は食事がいちばんの条件だったので、昼食付きで見学してもらいました。メニューの説明を聞くだけでなく、実際に食べて、自分の口に合うかを確かめてもらうためです。
食事をしながら、周りの様子も見られました。住み替え先には比較的お元気な入居者さんが多く、ご本人も他の入居者さんと話しながら食事をされていました。
施設長の人柄や施設の雰囲気も含めて、「ここなら暮らせそう」と感じられたようで、この施設への住み替えを決められました。
食事が気になる方は、試食の可否や費用、普段の量、献立も見学前に確認しておくと安心です。見学時に確認したいことは、老人ホーム見学で確認すること|後悔しないためのチェックポイントでもまとめています。
同じ人でも、施設探しの優先順位は変わる
今回の事例は、前回の施設探しと同じご本人のお話です。
最初は「できるだけ安く」「自由に外出したい」「介護サービスを必要以上に使いたくない」という条件を重視していて、それに合う施設に入居されました。ところが4か月暮らしてみると、食事の満足度や、周りの入居者さんとの相性が、思っていた以上に大きかったと分かったわけです。
一度決めた優先順位が、ずっと変わらないとは限りません。実際に暮らしてみて、自分が本当に大事にしたいことが見えてくることもあります。
老人ホームは「一度入ったら最後」ではない
老人ホームに入ると、「もうここでずっと暮らさなければいけない」と思ってしまう方もいるかもしれません。
もちろん、住み替えには、新しい施設の初期費用や引っ越し、契約の手続きといった負担がかかります。退去予告の期限や費用の精算、次の施設の受入条件も確認が必要です。それでも、どうしても生活が合わないときには、住み替えという選択肢もあります。
今回のご本人は、自分で希望を伝え、自分で見学し、食事まで確かめたうえで、新しい施設を選び直しました。費用を最優先する暮らしから、今の自分が楽しめる暮らしへと、考え方が変わったということだと思います。
まとめ|料金だけでなく「どんな毎日を送れるか」を見る
低価格で自由度の高い住宅型有料老人ホームに入居した男性が、約4か月後に住み替えを考えることになった、というお話でした。
理由は、食事が合わず、外で食べ物を買い足すことが増えたこと。そして、周りの入居者さんとの生活感の違いです。住み替え先は、施設内で調理した食事を昼食付き見学で確かめ、買い物や散歩もしやすく、比較的お元気な入居者さんとも交流できるところを選びました。
費用は大きく上がりましたが、ご本人は「動けるうちは自由に、自分らしく暮らしたい」と、その暮らしを選ばれました。
老人ホームを選ぶときは、月額料金だけでなく、食事、自由度、周りの雰囲気、外出のしやすさなど、毎日そこでどう過ごすのかまで考えてみてください。入居後に生活が合わないと感じたときは、施設の担当者やケアマネジャー、相談員に困っていることを伝え、今の施設で調整できることや住み替えも含めて考え直してみる方法があります。



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