老人ホームを探し始めると、「介護付きと住宅型、どちらがいいの?」「サ高住でも介護が必要になってから住める?」「認知症があるならグループホーム?」「看護師がいる施設なら医療行為も全部対応してもらえる?」など、施設の種類だけでも分からないことがたくさんあると思います。
私は普段、老人ホーム紹介の相談員として、ご本人やご家族、病院などから相談を受けながら施設をご提案しています。その中で感じるのは、「この介護度なら、この施設種別」と単純に決められるものではないということです。同じ要介護度でも、予算や希望する地域、認知症の症状、必要な医療行為、ご本人の希望、ご家族がどこまで支援できるかによって、提案する施設は変わってきます。
この記事では一般的な施設の種類の説明ではなく、私が実際に老人ホームを提案するとき、どんな順番で条件を確認し、どのように候補を絞っているのかをご紹介します。
以下は私自身の業務での考え方や経験です。提案する施設数や確認の順番は、すべての相談員に共通する基準ではありません。必要な医療的ケアや入居期限など、候補の可否に直結する条件は、予算とあわせて相談の早い段階で伝えてください。
まず確認するのは「予算」
施設探しの相談を受けたとき、最初に確認するのが予算です。老人ホームを探している方の状況は本当にさまざまで、年金の範囲内で生活したい方もいれば、ある程度費用をかけても希望する地域や設備を優先したい方もいます。そのため、施設の種類から決めるのではなく、「毎月どのくらいまでなら無理なく支払えるのか」を確認してから施設探しを始めています。
老人ホームは一度入居すると長く生活する可能性がある場所です。入居時に支払えても、毎月の費用を継続して負担できなければ生活を続けることが難しくなります。だからこそ私自身は、施設選びの中でも予算をかなり重視しています。
費用の内訳は老人ホームの費用はいくら?月額料金以外にかかるお金を解説、予算の考え方は老人ホームは年金だけで払える?予算と貯金の考え方を解説でも詳しく紹介しています。
予算とエリア、どちらを優先するか
予算を確認した後は、希望するエリアを伺います。ただ、「安い施設がいい」という希望と「自宅の近くがいい」という希望を、両方とも完全に叶えられるとは限りません。そこで、予算と距離のどちらをより優先したいのかも確認するようにしています。
「とにかく費用を抑えたい」という方であれば、希望エリアだけに絞らず、少し遠方も含めて予算内の施設を探します。一方、「できるだけ家族の近くで、なおかつ安いところがいい」という場合には、遠方の最安値クラスの施設と、近隣で比較的費用を抑えられる施設の両方をご案内することもあります。「費用だけを優先するならこちら、ご家族の近くで探すならこのくらいの金額から」という形で、比較していただくイメージです。
安い施設を一つだけ紹介するのではなく、費用と距離のバランスを見ながら選択肢を作る。これも施設を提案するときに意識していることです。
介護度や必要なお手伝いを確認する
予算とエリアの次に見るのが、現在の介護度や生活状況です。ここでも「要介護○だからこの施設」と機械的に決めることはしていません。現在どのくらい自分で生活できるのか、どんなところにお手伝いが必要なのか、今後介助量が増えていきそうなのか。こうした部分を見ながら考えます。
比較的お元気な方には住宅型やサ高住を提案することが多い
比較的お元気で、「まだ自分でいろいろやりたい」「できるだけ自由に外出したい」「そこまで多くの介助は必要ない」という方には、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を提案することが多くあります。
これは、住宅型やサ高住は元気な人しか入れない、という意味ではありません。あくまで私が普段提案する際の傾向です。特に自立度の高い方の場合は、介護体制だけでなく外出のしやすさや生活の自由度も大切になるため、ご本人がどんな生活を続けたいのかを確認しながら提案しています。
今後介助量が増えそうなら介護付きも候補にする
現在はそこまで多くのお手伝いが必要でなくても、少しずつ介助が増えている、あるいは今後介護度が上がる可能性がありそうな場合には、介護付き有料老人ホームも候補に入れます。今入居できるかだけでなく、これから介助量が増えたときにも生活を続けやすいかという視点も大切にしているからです。
もちろん、介護付きだから必ず長く住めるわけではありません。施設によって対応できる状態や医療行為は異なるため、最終的には個別に確認します。
住宅型でも介助量が多い方を提案することがある
一方で、住宅型だからといって必ずしも介助量の少ない方だけに提案しているわけではありません。併設のデイサービスや訪問介護を活用しながら、介助量の多い方を受け入れている住宅型施設もあります。
介護保険サービスには要介護度ごとの支給限度額があり、それを超えて利用する介護保険サービスは原則として全額自己負担になります。また、施設が独自に提供する保険外サービスについても、内容や費用は施設ごとに異なります。こうした追加費用と支援体制を確認したうえで、介助量が多い方の候補としてご提案することがあります。「住宅型だから軽度向け」「介護付きだから重度向け」と施設種別だけで判断せず、実際にその施設がどこまで対応できるのかを確認するようにしています。同じ住宅型有料老人ホームでも、施設によって受け入れている方の状態はかなり違うからです。
認知症は「ある・ない」だけで決めない
認知症についても、「認知症があるからこの施設」という決め方はしていません。確認しているのは、診断名よりも現在どのような症状が出ているかです。外へ出て戻れなくなることがある、施設内を歩き回ることがある、大きな声が出る、暴言がある、他者への暴力がある。こうした、施設生活を送るうえで特に確認しておきたい症状があるかどうかです。
そのようなときはご家族や病院から現在の状況を詳しく聞き、その内容を候補となる施設へ伝えます。そして「この状態であれば相談できます」「この条件であれば受け入れ可能です」といった施設側の回答を確認したうえで、ご家族へ提案するようにしています。認知症という言葉だけでは、実際にどのくらいのお手伝いが必要なのかは分かりません。だからこそ、症状を具体的に確認することを大切にしています。
詳しくは認知症の方の老人ホーム選び|受け入れ条件と見学で確認したいことをご覧ください。
医療行為がある場合は最初に確認する
医療面についても、ご相談の段階で確認します。病院やご家族から「こういう医療行為があります」というお話があれば、その対応ができる施設を中心に探します。
例えば、継続して喀痰吸引などが必要な方の場合は、24時間の看護体制がある施設を中心に相談することが多いです。一方、在宅酸素を使用している方や、インスリンを本人が自己注射できる方などの場合は、24時間看護だけに絞らず、日中に看護師が配置されている施設にも個別に相談しています。
ここで大切なのは、「看護師がいる施設=すべての医療行為に対応できる施設」ではないということです。同じ医療行為でも、看護師の配置時間だけでなく、施設の人員体制や協力医療機関、処置が必要な時間帯によって受け入れ条件は変わります。そのため、施設のホームページやパンフレットを見るだけでなく、必要な医療行為を具体的に伝えて確認しています。
医療面の確認ポイントは医療的ケアが必要な方の老人ホーム選び|看護体制と受け入れ条件の確認ポイントでも紹介しています。
ご本人の希望もできるだけ大切にする
ご本人が自分の希望を伝えられる場合には、予算や受け入れ条件の範囲内で、できる限りその希望を叶えられる施設を探したいと考えています。「外出しやすいところがいい」「静かに生活したい」「自宅の近くから離れたくない」といった希望です。
老人ホームは入居後、そこで毎日の生活を送る場所になります。だからこそ、ご本人の希望を無視して家族だけで決めてしまうのではなく、できることはできるだけ施設選びに反映したいと思っています。
安全面から叶えることが難しい希望もある
ただ、ご本人の希望をすべてそのまま叶えることが難しい場合もあります。例えば要介護3〜5で日常生活に多くのお手伝いが必要だったり、認知症があって一人で外出すると自宅へ戻れなくなることがある方から、「一人で自由に外出したい」という希望が出ることもあります。
その気持ちは大切にしたいのですが、安全に生活できるかという視点も無視することはできません。本人が希望していることと、安全に生活を続けられることの両方を考えながら施設を探します。希望の中で実現できる部分はできる限り残し、難しい部分についてはご家族とも相談しながら選んでいきます。
ご家族の希望も施設選びでは重要
老人ホームへ入居しても、ご家族との関係がなくなるわけではありません。通院や買い物への付き添い、緊急時の対応、面会、入院したときの対応など、入居後もご家族が関わる場面はあります。
そのため「何かあったときにすぐ行ける距離がいい」というご家族の希望があれば、ご家族の自宅に近い施設を優先することもあります。ご本人とご家族の希望が違う場合には、できる限りご本人の希望を残しながら、実際に入居後の生活を支えるご家族の事情や安全面も考えて候補を絞っています。
看取りを最初から最優先にしないこともある
看取りについては、相談される方の状態によって考え方を変えています。まだ比較的お元気な段階で施設探しをしていて、「最期までこの施設で生活したい」という希望が特に出ていない場合には、最初の提案段階から看取り対応を最優先にすることはあまりありません。
一方、要介護3以上で介助量が増えている方や、「できれば最後まで住み続けたい」「看取りまで対応してほしい」という希望がある場合には、事前に施設へ確認したうえで提案します。ただ、提案段階ですべての条件を決め切るわけではなく、まず条件に合いそうな施設を提案し、その後の見学でさらに細かい部分を確認することも大切にしています。
条件に合えば最初に4〜5施設ほど提案する
条件に合う施設が複数ある場合は、最初に4〜5施設ほどまとめて提案することが多いです。費用、場所、介護体制、医療対応、ご本人・ご家族の希望などを比較して、実際には2〜3施設ほど見学される方が多い印象です。
ただ、「気になるところは全部見に行って大丈夫ですよ」とお伝えしています。施設探しは百聞は一見にしかずだと思っているからです。
資料だけでなく実際の雰囲気を確認する
資料を見るだけでも、月額費用や居室の広さ、設備、介護体制などはある程度分かります。しかし、それだけでは施設の雰囲気までは分かりません。
実際に見学すると、施設長がどのような方なのか、介護職員がどのような雰囲気で働いているのか、入居されている方がどのように過ごしているのか、施設全体の雰囲気はどうか、といった部分を見ることができます。同じ種類の老人ホームでも、実際に行ってみると雰囲気はかなり違います。だからこそ、資料だけで決めるのではなく、実際に見ていただくことをおすすめしています。
見学には基本的に私も同行している
見学には基本的に私も同行しています。そこで、事前の相談では確認できていなかった部分について、私から施設へ質問することもあります。「介護度が上がっても住み続けられますか?」「どのような状態になると退去の相談になりますか?」「看取りまで対応していますか?」「医療行為が増えた場合、どこまで対応できますか?」といったことです。
施設探しに慣れていないご家族の場合、「何を聞けばいいのか分からない」ということも少なくありません。そうした部分を一緒に確認するのも、私が行っている施設紹介の一つです。
見学前には老人ホーム見学で確認すること|後悔しないためのチェックポイントも参考にしてください。
条件によっては1〜2施設しか提案できないこともある
通常は4〜5施設ほど提案することが多いですが、必ずそれだけご紹介できるわけではありません。「とにかく月額費用を抑えたい」という場合や、生活保護を利用しながら入居できる施設を探している場合などは、もともと候補が限られることがあります。さらに現在空室があることまで条件に加えると、候補がかなり少なくなることもあります。その場合は、1〜2施設のみのご提案になることもあります。
施設数を増やすために条件に合わない施設まで無理に紹介するより、実際に入居できる可能性があり、その方の条件に合った施設を提案することの方が大切だと思っています。
退院期限が迫っていても基本的な考え方は同じ
施設探しには、「まだ自宅で元気に生活しているけれど、今のうちから探しておきたい」という相談もあれば、「病院から退院期限を言われていて、早く施設を決めなければならない」という相談もあります。
私の場合、どちらでも施設の選び方を大きく変えることはありません。予算、希望エリア、介護度、認知症状、医療面、本人・家族の希望、そして空室状況。こうした条件を一つずつ確認しながら、現在提案できる施設を探します。急いでいるからどこでもいい、ではなく、限られた時間の中でもできる限り条件に合うところを探すようにしています。
提案された候補は、正式な受け入れ決定とは限らない
施設から「相談できます」と回答があった段階と、本人の状態を確認したうえで正式に受け入れが決まる段階は分けて考えましょう。空室があることだけでは、希望日に入居できるとは限りません。見学や面談、必要書類の確認など、どの手続きが残っているかを施設へ確認します。
- 条件付きの回答:「日中の処置なら対応できる」などの条件が、本人に必要な時間帯・頻度・支援内容と合うか確認する。
- 未確認の事項:夜間の支援、追加費用、家族の役割など、誰に何を再確認するかを残す。
- 入居までの手続き:状態確認・面談・契約・準備の日程と、入居可能日を確認する。
医療的ケアの情報は、主治医や病院の担当者等と連携し、必要な内容を候補施設へ伝えます。紹介時点から状態が変わった場合も、改めて対応の可否を確認してください。
紹介会社を利用するときは、案内範囲も確認する
紹介会社から提示された候補が、地域のすべての施設を網羅しているとは限りません。提携先や対応エリアによって紹介できる範囲は異なります。「どの範囲から候補を選んだのか」「希望する施設が対象外ならどう確認できるか」を聞くと、ほかの窓口も使って調べる必要があるか整理しやすくなります。
また、相談・見学同行などの支援範囲と利用者が支払う費用、施設から紹介会社へ支払われる紹介手数料の仕組みも確認しましょう。詳しくは高齢者住まい事業者団体連合会「よくある質問」も参考になります。
まとめ|私が施設を選ぶときは「その人の条件」を一つずつ確認している
私が老人ホームを提案するとき、一番最初に確認するのは予算です。その後、希望エリア、介護度や介助量、認知症の症状、必要な医療行為、ご本人の希望、ご家族の希望、安全面、空室状況などを確認していきます。
条件に合う施設があれば4〜5施設ほど提案し、その中から実際に見学して比較していただくことが多いです。ただし予算や生活保護、医療行為など条件によっては、候補が1〜2施設しか見つからないこともあります。
老人ホームにはたくさんの種類がありますが、施設種別だけを見ても、その人に合う施設かどうかは分かりません。これからも、資料上の条件だけではなく、ご本人やご家族がどんな生活をしたいのかまで確認しながら施設を提案していきたいと思っています。
そして施設を決める前には、ぜひ一度実際に見に行ってみてください。私がいつもお伝えしているのは、「百聞は一見にしかず」です。



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